NVIDIAが世界のヘルスケア組織・研究機関との協業を発表 オープンモデル「RFD4-Proteina」でタンパク質設計、Siemens Healthineersとはがん治療で協業

NVIDIAは2026年10月21日、ベルリンで開催された「GTC Berlin」で、世界の主要なヘルスケア組織や研究機関とのコラボレーションを発表しました。新たに公開したオープンモデル「RFD4-Proteina」などを通じてタンパク質設計を進化させ、創薬を加速するとともに、がん治療の精度をさらに高めていくとしています。
ライフサイエンスの研究者が新薬を発見するには、膨大な生物学的設計空間を探索し、計算による設計とラボでの試験を繰り返すサイクルの短縮を目指す必要があります。一方、がん治療チームは、複雑な画像データや治療データを患者一人ひとりに合わせた精密な治療計画へと変換するという、別の課題に直面しています。NVIDIAは、オープンモデル、アクセラレーテッドコンピューティング、フィジカルインテリジェンスによって、新しいタンパク質の設計から適応放射線治療の計画立案まで、専門家がより多くの可能性をより迅速に評価できるよう支援するとしています。
NVIDIAのヘルスケア担当バイスプレジデント、キンバリー・パウエル(Kimberly Powell)氏は、エージェント型AIとフィジカルAIが、タンパク質設計や自律型ラボの実現から個別化されたがん医療の向上まで、医療の幅広い分野で新たな可能性を切り拓いていると述べました。また、ヘルスケアおよびライフサイエンス分野のリーダーとともに科学的発見を加速し、世界中でより精密で誰もが受けやすい医療の実現を進めているとコメントしています。
タンパク質を「設計する」時代へ RFD4-Proteinaが登場
タンパク質は、生命に欠かせない多くの役割を担う分子ツールです。新しいタンパク質を設計できれば、新薬や診断、産業用途への道が開ける可能性があります。ただし、狙った機能を発揮するタンパク質を見つけるには、膨大な設計の可能性を探る必要があります。
そこでNVIDIAとワシントン大学医学部タンパク質設計研究所は、プログラム可能なタンパク質設計と探索機能を組み合わせたNVIDIA BioNeMoのオープンモデル「RFD4-Proteina」を発表しました。このモデルは目的に合わせたタンパク質の設計案を生成します。科学者やエージェントは、分子の入力情報、制約条件、スコアリングの目標を使って設計案を探索し、改良できます。想定される用途には、疾患の進行過程を妨げるタンパク質や、診断検査で疾患の兆候を検出するタンパク質の設計が含まれます。
研究論文のドラフトで報告された試験では、タンパク質結合、低分子結合、酵素の足場構造設計、DNA結合の4つのベンチマーク群で、評価対象のベースラインを上回る計算上の設計成功率と生成スループットを達成しました。このモデルは、研究者がラボ試験の候補を探し、優先順位を付ける作業を支援します。各設計が試験条件下でどう機能するかは、ラボでの実験で確認します。
2024年のノーベル化学賞受賞者で、ワシントン大学タンパク質設計研究所の所長を務めるDavid Baker氏は、自然が生み出したタンパク質を発見する時代から、まったく新しいタンパク質を設計できる時代へと移りつつあると語りました。RFD4-Proteinaは、創薬を進展させる可能性のあるタンパク質から農薬を分解する酵素まで、科学者が創り出せるものの範囲を広げるとしています。さらに、モデルをオープンにすることで、世界中の研究者がかつては手の届かなかった課題の解決に取り組めるようになると述べています。RFD4-Proteinaは発表当日から、Amazon Bio Discovery、AnthropicのClaude Science、Benchling、Databricks、Google Cloud、Hugging Face、Nebius、OpenAI、Tamarind Bioなどのパートナーを通じて利用できます。研究者や開発者は、エージェント、クラウド、科学技術計算のワークフローにこのモデルを組み込めます。
Siemens Healthineersと次世代の適応放射線治療を開発
2050年には、世界で毎年約3,500万人が新たにがんと診断されると予測されています。医療チームは限られた専門人材で対応しながら、精密で個別化された治療を提供しなければならないという圧力の高まりに直面しています。効率が上がれば、処方された線量を腫瘍に照射し、周囲の健康な組織を守るために必要な精度を保ちながら、治療へのアクセスを広げることにつながります。
Siemens HealthineersとNVIDIAは、エージェント型AIとロボティクスのインテリジェンスを備えた次世代の適応放射線治療の開発で協業しています。腫瘍医が個別化された治療戦略を評価し、改良するのを支援することを目指し、共同計画立案を担うエージェント型AIを動かすためにNVIDIA Nemotronオープン基盤モデルの活用が検討されています。そのうえで、これらのモデルをNVIDIA CUDAで高速化した線量計算による迅速な患者ごとのシミュレーションやNVIDIA Holoscanプラットフォームと組み合わせ、リアルタイムのセンサーデータをAIやシミュレーションとつなぐことで、患者の変化に適応する治療を支援できる可能性があるとしています。Siemens Healthineersのがん治療事業であるVarianの責任者、Arthur Kaindl氏は、適応放射線治療は「治療を患者に合わせるべきで、患者を治療に合わせるべきではない」という原則に基づいていると説明しました。直近ではAccelaシステムを発売しており、今回の協業ではこうした進歩を土台に、AIとリアルタイムコンピューティングが臨床医の判断をどう迅速化し、より深い洞察をもたらせるかを探るとしています。
創薬を支える科学エージェントと、病院業務の効率化
世界の科学研究開発費は3兆8,000億ドルに達し、医薬品の年間予算は3,000億ドルに近づいています。科学エージェントと自律型ラボは、設計、実験、学習を継続的なサイクルで結び付けます。これにより、こうした投資のより多くをエビデンスや洞察、ひいては新たな治療へとつなげることができるとされています。研究およびラボ向けのテクノロジー企業は、オープンな開発プラットフォームであるNVIDIA BioNeMoを、Nemotronなどと組み合わせて活用し、次のような取り組みを進めています。
- Benchling:実験データ、研究の背景情報、相互に連携する科学研究ワークフローを、エージェントの動作の根拠として活用
- Biolevate:創薬と医薬品開発の全体にわたり、生物学的データ、科学分野に特化したツール、エージェントによるリーズニングを結び付け
- Boltz:分子構造の予測や候補の設計・評価に使える特化型モデルとツールを開発。ワークフローを計画し、結果を解釈して次の実験の方向性を示す科学エージェントもプレビュー
- Automata:科学エージェントと自動化されたラボのインフラを接続し、エージェントがワークフローを通じて実験を開始し、構造化され背景情報が付与された結果を取得できるように
- Danaher:同社の自律型ラボ内のタンパク質設計ファウンドリで、GenedataのAI共同研究者がタンパク質の設計と試験を調整。このワークフローにはRFD4-Proteinaが組み込まれている
- Hologen:大規模医療モデルとNVIDIA Nemotronを組み合わせてAI臨床科学者を構築。実際の研究者が画像データや臨床データを患者の転帰に関する洞察へと変換し、臨床試験の設計に反映できるよう支援
- Therna Biosciences:大規模言語モデルのリーズニングを活用し、実験的エビデンスとRNA医薬の設計を結び付け
欧州各地の医療システムは、多忙な医療チームの事務負担を減らしながら、専門医療へのアクセスを広げることに取り組んでいます。Avelios、Corti、Dedalus、Dawn Health、SwordはNVIDIA Nemotronを基盤に開発を進め、AIによる診療記録の作成やAIを活用した診療、個別化された患者支援サービスなどを支えています。PolyAIはNVIDIA Agent Toolkitを基盤に、ベルギーとフランスで7万人以上の医療従事者に広がるネットワークを持つ医療ソフトウェアプロバイダーCorilusとともに多言語対話システムを展開し、患者が治療を受けるまでのプロセスを迅速化しています。さらにApianとVitVioは、NVIDIA Cosmos世界モデルとNVIDIA Omniverseライブラリを活用して、病院業務を監視・改善するデジタルツインを構築しています。
出典:NVIDIA


